雪山遊びの盲点

 3月の初め頃、青山舎の主要メンバーに連れられて、ひさしぶりに雪山に行ってきました。今回の舞台は、滋賀県の北西部にある標高865メートルの山「武奈ヶ嶽」(通称「湖北武奈」)。測量の仕事をしていた頃は、南アルプスの方でほぼ定期的に冬山へと入っていたのですが、この5年くらいはパソコン相手の諸々の仕事にどっぷり浸る生活が続いていて、足跡のほとんどない白い雪に覆われた山肌の、眩しくも清々しい風景を懐かしく思い始めていたところでした。そんなわけで、誘いの電話を受けた私は、よろこんで参加することに決めました。

 しかし、ちょっと考えが甘かった。日頃の運動不足による体力の低下はともかく、冬の自然からしばらく遠ざかっていた私は、雪山遊びをする上で最も重要な、あることを忘れてしまっていたのです。

 雪というのは意外と暖かい。都会暮らしをする者にとって、歩道の段差にこびり付いた残雪は寒い冬の日の記憶を彩る端役的な存在ですが、自然の中にある積雪は、夜の冷え込みが厳しい反面、好天の日中には蒸発時の気化熱で周囲の冷気を取り除いてくれるので、冬とは思えないほどの穏やかな気温をもたらしてくれることが多いのです。しかし、出発の数日前から風邪をひいていた私は、冬山という言葉が持つ、軟弱な登山者を拒絶するかのような響きに惑わされて、アラスカで購入した防寒ジャケットや防寒用下着を着用するという大きなミスを犯してしまいました。

 登り始めてしばらくのうちは、朝の冷気が木々の間に漂っていたこともあり、ちょうどいい感じで歩いていたのですが、30分も歩くと体温が上昇して、ジャケットを着用しながら進むのがつらくなってきました。しかし、保温性の高い下着を着ていたせいで、ジャケットを脱いでもなかなか体の冷却が進みません。汗をかいて、その熱が内側にこもり、さらに汗をかくという悪循環に陥り、じめじめした不快感で体力の消耗もいちだんと加速します。

 どうにかこうにか、山の頂点へとたどり着いた頃には、私の体温は限界に近づいていました。昼食をとる仲間を横目に、私は荷物を下ろすと即座にジャケットと小型エアマットを積雪の上に敷き、昼寝モードへの移行を決断します。ふわふわした雪のカーペットが吸音材の役目を果たしてくれたこともあり、数秒のうちに快い眠りに落ちた私は、ひとときの休息で体力を回復することに成功しましたが、外気は依然として湿度を帯びているので、汗で濡れた下着はじっとりと水分を含んだまま、乾いてはくれませんでした。やっぱり、私のような汗かきの人間は、季節を問わず、自然に入る時には着替えのTシャツを最低2枚(目的地到達時と下山後にそれぞれ着替える)は用意しておくべきだと実感させられた次第です。

 その後、小松女史の率いる婦人山岳連隊と合流して下山に入りましたが、汗だくの下着はしぶとく体温調節を妨害し続け、休憩の時には私の背中から白い湯気が立ち上っているのが肉眼で確認できたほどでした。結局、この登山行で激しく体力を消耗した私は風邪をぶり返し、翌日から数日間の静養を余儀なくされることになります。

 あまり汗をかかない人は特に気にする必要もないでしょうが、そうでない人は、雪山で遊ぶ時には白々とした涼しげな見かけに惑わされることなく、発汗対策をきちんと考えておくべきです。その点、今回の登山では私の判断ミスにより上半身の体温調節機能がほとんど阻害されていた一方、非常によくできたズボンのおかげで、下半身の冷却はかなり効果的に行えたのが救いでした。この日、私が着用していたモンベル社の防寒ズボンは、サイド部分に長いジッパーが付いていて、必要に応じて開口部の位置と大きさを変えられるので、汗が中にこもるのを防ぐことができるのです。私は別にブランド信仰者ではないのですが、このような商品を実際に使ってみると「さすが、使う人間の経験を活かして商品開発をしているな」と感心させられます。

 というわけで、私にとって久しぶりの雪山遊びは、自然は決して人間を甘やかしてはくれないという厳しい教訓と共に終了しました。でも、体力の消耗はひどかったけど、精神的には楽しかったなあ。ギュッギュッと雪を踏みしめる時の心地よい感覚、シカやウサギの足跡、白い雪と濃緑の木々との鮮烈なコントラストが続く山並みの風景、そして、風が吹かなければほとんど無音に近い静寂の空間。

 来年は、もっと楽しめるように気をつけて準備しよう

(文/写真 山崎 雅弘 2008@mas-yamazaki.com


※今回の登山行で撮影した写真(計20点)を、
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