個人サイトをリニューアルしようと、前々から考えているのだが、いまだ実現できていない。本業や副業、私生活での多忙という理由ももちろんあるが、それ以上に私のやる気を削いでいるのは、現在のホームページで使用されているhtmlという仕様が、どうにも未完成で、いつまでたっても完結しないという問題である。使っているアプリケーションが古いことにも原因の一部はあるのだろうが、どんなに頑張っても、思い通りの仕上がりにならないのが不満なのだ。

 例えば、シックス・アングルズの地図や駒を製作する場合、全体のバランスを徹底的に検討・吟味した上で、最終的な配置を決め、0.1ミリ単位で個々のパーツの位置を整えて印刷所にデータを送る。そうすると、業者の技量にもよるが、たいていはこちらが設定した仕様どおりに完璧に仕上がったものを納品してくれる。だから、デザインする側としても全てをコントロールできるという実感がある。完成物を見て、イメージ通りに仕上がっていると、大いに満足できる。  
 しかし、ホームページの場合は、そうはいかない。

 まず、使用するOSとブラウザの種類、そしてバージョンの問題がある。仕事で使っているメイン機はMac(G4 Cube)なのだが、それで作成したデータをネット接続用のWinマシンに持っていくと、なぜか細部の設定が飛んだり、画像のリンクが切れたりする。「エラーが発見されたので修正しました」などとメッセージを送ってくるが、そういう内容の改竄をマイクロソフトに許可した覚えはない。なぜ勝手に手を入れるのか。

 しかも、ユーザーが使用しているブラウザの種類(IE、ネットスケープ、オペラなど)やそのバージョンごとに、微妙に見え方が変わってしまう。MacとWinでは、使用フォントとそのピッチが異なっているので、文字の改行位置や行間、全体の見え方を、統一的に確認することができない。全てを思い通りのバランスにしたければ、1枚物の画像にするしかない。

 本来なら、どのようなマシンで閲覧しても、同じように表示される統一的な技術がもうとっくの昔に実現されていても良さそうなものだ。しかし、事実は逆で、私の使用しているIE5.0では表示できないページというのも最近は増えてきた。画面にいくつもバッテン印が出て、その先へ進むことすらできない場合も少なくない。
 ある時、御社のサイトが見られないではないかと苦情のメールを送ったら、担当者は「サイトの下にIE5.5以上を推奨と書いてあります」と平然と答えた。ブラウザのバージョンアップを怠っているお前が悪い、と言うのだ。

 私がIEを5.5にしない最大の理由は、オフラインで保存しているデータのリンクがブチブチ切れてしまう危険がある(実際、実家で親が使っているマシンで5.0を5.5に更新したら、リンクが全て切れて修復に困った)ということなのだが、セキュリティ面での弱点は承知しているので、そちら方面の設定をガチガチに固めて使用している。
 もしかしたら、バッテン印の原因のひとつは、セキュリティの強化にあるのかもしれない。だが、5.0では見られなくて当然、見たければ早く5.5にアップするように、などという作り手側の態度は、やはり傲慢であるように思えるし、むしろコミュニケーションの機会を自ら狭めているようにさえ感じられる。見られなくても良いのなら、なぜ企業のサイトを外部に公開しているのか。

 こういう「ITバリア」とでも呼ぶべき現象は、ホームページに限らず、家電製品全般でも珍しくないことだ。私の周囲にも、このような風潮に困惑している人が少なくないのだが、メディアは沈黙を守っている。

 先日、彼女がプリンタとスキャナの一体機を買うというので、梅田のヨドバシカメラへ行った。しかし、店員に聞くと、使える機種が一台もないという。そんなバカな話があるか、こんなに商品が豊富なのに、と思ったが、彼女が使っているMacのOSは9.0台で、今売られている機種はすべて9.1以降にしか対応していないらしい。私のメイン機もまだ9.0.4のままなので、この展開には若干の動揺を隠し切れずにいたが、幸い店員には悟られずに済んだ。

 その後、JR大阪駅下のソフマップでも確認したが、結果は同じだった。仕方なく、彼女はOSを9.2にアップして、めでたく使用できる環境が整ったようだが、私の方は印刷フォント関係の技術的な問題から、9.1以降への更新は見送り続けている。
 それでも私としては最高の仕事をできる環境なので、特に支障はない。Illustratorは今でも5.5Jがメインだし、Photoshopも5.0Jがいちばん使い勝手がよいので使い続けている。アプリケーションのバージョンをわざわざ上げなくても、仕事の品質を向上させることは充分可能だと私は確信している。仕事の品質は、アプリのバージョンで決まるものではない。

 ソフマップで買ったプリンタを車に積み、再びヨドバシカメラへ入店してデジカメのコーナーへと向かう。デジカメをもう少し軽くて小さいものに買い換えたいらしい。今使っているのはオリンパス社の製品で、同じメディアを使えるものがいい、と言うので、カードリーダという2000円くらいの装置をパソコンに繋げば、他社のメディアでも簡単に取り込めることを教えてやる。だが、たいていの人は、カードリーダの存在そのものを知らないし、これを使えばLANで接続しなくても複数のマシン間、例えばMacとWinの間で安全にデータをやりとりできることもご存知ない。

 結果として、技術的な知識をあまり持たない人は、本来必要のない出費を強いられ、使い勝手の悪い環境でがまんを強いられることになる。デジカメという道具は今や人々の生活の中へ完全に定着しているようだが、その記録メディアは各社バラバラで、理想とはほど遠い状態にある。メディアを共通化することに反対するユーザーは、1人もいないはずだ。だが、特定の道具が果たす、公共物としての社会的役割、という発想は、メーカーで働く人々の思考回路にはあまり存在していないようだ。

 今年の5月に現地で観戦した、F1のヨーロッパGPの放送を録画したDVDを、古角氏が貸してくれた。しかし、手許にあるPC用の外付けプレーヤーでも、ブレイステーション2でも、そのDVDを再生することはできなかった。どうやらDVD録画の仕様が違うのが原因らしい。

 DVDの世界も、デジカメのメディア同様、共通化ではなく分散化の方向へ進んでいて、他社の機器で録画したものを、自社の製品で問題なく再生できるようにしようと考える良心的な企業は、あまり見当たらないようだ。完全に共通化してしまうと、結局はパナソニック松下に食われると考えているのか。しかし、買う側の立場を無視した保身の商品開発が、社会に貢献しているとは言いがたい。

 このあたりの事情を考慮すれば、メディアが問題意識を全く持たないか、あるいは持っていても問題を見ないふりをしている理由がよくわかる。例えば、事実上の独占企業であるマイクロソフトは、競争相手がいないのだから本当ならテレビでコマーシャルなど打つ必要はない。ユーザーが選べる余地は、ほとんど無いからだ。

 それなら、なぜあれほど巨額の広告費を計上して、連日テレビでコマーシャルを流し続ける必要があるのか。テレビも雑誌も、広告収入でしか成立し得ない媒体だが、デジカメやDVDプレーヤーの広告で食わせてもらっている立場の人間が、広告主の企業を批判する情報を出せるはずがない。結果として、これらの広告主の商品を批判する番組は、存在することすらできない。だが、ほんとうにそれで良いのか。

 一時期、バリアフリーという言葉がもてはやされた時期があった。駅や公共施設などで、車椅子や足腰の弱い人でも移動が楽になるよう、スロープ等を併設する動きのことである。バリアフリーの推進により社会は少し、良くなったように思う。だが、家電製品の分野で発生している「ITバリア」の問題は、近い将来に好転するようには見えない。

 機械類に弱い高齢者にパソコンを買わせ、トラブルが発生したらまた新しい機械に買い換えさせる、という風潮は、経済の活性化という一点においては素晴らしい「政策」なのだろうが、バリアフリーの発想とは対極に位置するものだ。OSやブラウザのバージョンアップや、修正パッチのダウンロードなど、高齢者に自分でしろと命じるのはどう考えても無理があるし、高齢者でなくても機械類が苦手だという人は社会にたくさんいる。機械に弱いことが、現代社会では大きな「ハンディキャップ」になるのは明らかに不条理だ。

 IT弱者を社会から切り捨て、あるいは置いてきぼりにして、新製品を雨後の筍のように登場させ、企業側にいちばん利益のある解決法をとる。まだ使える道具を捨てさせ、新しい道具と買い換えさせることで景気を維持する。ソフト会社の収益のため、必要のないバージョンアップをユーザーに強要する。
  そういう社会を良しとするのか、それともハードウエアの共通化、バージョンの新旧に関わらず対応できるソフトの開発という、ユーザーにいちばん利益のある解決法をとる社会を目指すのか。ハードウエアやソフトウエアは、社会のニーズに応える公共物なのか、それとも企業に収益をもたらすための単なる撒き餌にすぎないのか。

 いずれにせよ、ホームページのリニューアルは近いうちにしようと思う。もちろん、IE3.0やネットスケープ3.0でも正しく閲覧できるページにする。フラッシュアニメとか、余計なプラグインがないと見られないギミックは、将来も全く使用するつもりはない。これは「企業の利益のためのバージョン更新」を当然視する風潮への、私なりの「抵抗」なのである

 

文・山崎 雅弘
出典:山崎雅弘ブログ 2005年8月18日

 


山崎雅弘へeメールを送信する  >
 2008@mas-yamazaki.com
Copyright (c)2000-08  Masahiro Yamazaki  All rights reserved.
http://www.mas-yamazaki.com
http://blog.so-net.ne.jp/mas-yamazaki/

本ページの文章の無断引用・転載を禁じます。